2008/10/23 作成

阿波大宮駅



香川と徳島の県境に近い「阿波大宮駅」 静かな佇まいに心が和む 

    

駅舎は開業当時のものを手入れしながら大切に使っている   駅名標の横にある番号はJR四国の駅ナンバリング   長いホームに不釣合いな単行列車が停まる

    訪問日記  2005年4月20日 訪問

   ここは、香川と徳島の県境に近い山間の駅である。周囲にある人家は十数軒を数えるが、国道からは遠く離れているため、実に閑静な佇まいだ。駅舎も昭和10年3月20日に
 開業した当時のものを、今も手入れされながら大切に使っている。跨線橋の上から眺める駅全景は、細長い島式ホームが山に向かい、カーブしながら途切れて行くような独特の
 情景を見せる。
讃岐山脈を長いトンネルで越えてきた列車の幾つかは、反対列車を待ち合わせるため数分ほど停車することが多い。列車のドアが開くと、車内の淀んだ空気が、
 清涼な外気と入れ替わっていくのを感じる。ホームに出て、すっかり“椅子のかたち”に固まってしまった身体を伸ばしてみる。何とも清々しい気分になれて嬉いではないか!
 窓すら開かない特急列車が運転停車してもこうは行くまい。この時ばかりは鈍行列車の特権であろう。

 今回ここを訪問したのは、先に述べた運転停車で体感した時以来の2回目だが、当時は秘境駅の訪問を始めて1年あまりで、同じ四国内にある坪尻駅や新改駅に惹かれていた
 ため、完全にノーマークであった。それだけ長年ここへ訪問することを温めて来たのだが、なかなか良い機会を得られず、クルマで訪れるという、いささか不本意な結果になってし
 まった。前夜、自宅のある広島から国道2号線に出て、延々とトラックの後ろに付くことを強いられた。排気ガスで喉がいがらっぽく不快極まりない。早く宇野に着いてフェリーに乗り
 たい。大型車の狭間という閉塞感からそんな気持ちに誘われた。こうして、かつての国鉄・宇高連絡線の連絡港である宇野駅前にやってきた。ガランとした広い駅前は綺麗に整
 備され、当時の面影をすっかり消してしまっている。フェリーに乗り込んだら一目散に向かうところがあった。そう、“連絡線うどん”をすするのだ。空腹を満たし、小一時間ほどの睡
 眠を取った。外の景色なんて帰りに見ればいい、クルマの運転は眠気を取る方が優先なのだ。高松港に着き、退屈な国道11号線を南下する。嬉しくなった時はただ一度、横目に
 キハ58系の普通列車を見かけた時だけ。やはり鉄道マニアはこうしたモノに過剰反応する性質なのか…。
 
 やがて、県道1号線と書かれた標識を発見して右折したが、のっけからつづら折れの急坂!おまけに狭く対向車との離合は至難の業である。これが“大坂峠”というもので、県道
 でも“1号線”と付くのだから真っ当な道路?だろうと、タカを括っていたが大間違いだった。悪路は延々と続き、ようやくこの阿波大宮駅にたどり着いた。なぜ駅の周りに車が少ない
 のか合点がいった。ひとり納得して、駅の観察をしながら静かなひと時を過す。駅前に馬酔木の径(あせびのこみち)という、簡単な案内板を見かけた。そこには大昔の関所跡が
 あるようだが、今日中に広島へ戻るという強行スケジュールのため、ノンビリとした散策は叶うべくもない。今回はクルマで来たからこそ、周囲の状況が詳しく解ったことも確かだ。
 けれども、今度は列車でゆっくりと訪れたいと思うのであった。