2000/12/07 作成

土本駅

大井川鉄道・井川線の“土本駅” 古くて簡素な待合所だけの駅が、晩秋の雨に濡れている

        

この先100m程で車道は行き止まり  ここで初めて自動車の姿を見たのはつい10年ほど前のことだ    夜間に訪問した時は真っ暗で周囲の状況は解らない


   訪問日記  2000年11月15・16日の2回訪問

  山間の集落のなか、ひっそりと小さな駅が佇む。線路の脇に低いホームと待合所が設けられただけの簡素なものだが、この地に住む人にとっては重要な交通手段だ。
 だが、ここへ鉄道以外の手段でたどり着くのは屈曲した山道を延々と走らなければならず困難である。これだけ開発の進んだ国にこのような場所があることに不思議さ
 を覚えるが、さらに驚く事実がある。なんと昭和の終わり頃までこの険しい車道さえも通じておらず、井川線だけが唯一の交通手段という、まさに陸の孤島であった。そ
 の昔、夜間に急患が出た時には、医者が懐中電灯1本で、隣の沢間駅から線路を歩いてきたという逸話があるほど凄まじい場所なのだ。大井川とその支流の寸又川と
 の三角地帯に堆積した“土”を意味する「土本」。周囲にある人家はわずか4軒で、そのうち3軒が「土本姓」であることから駅名となった。まさしく土本一族の専用駅であ
 り、今も静かに歴史を刻み続けている。

 今回、私はこの地方へ車で訪問した。それは金銭的問題と悪天候、さらに短い休みの中で効率良く多くの駅を回る必要性から、止む無く選択した結果である。第1日目は
 夕暮れ時の訪問だった。しかも駅が非常に解りにくい場所にある為、到達までに散々迷ってしまい、相当な時間を費やしてしまった。とうとう完全に日が落ちてしまい、し
 かも深い森林のために真っ暗で、周囲の状況は全く解らなかった。翌日、井川線にある主だった秘境駅を訪問し終えた後、帰りに再びここへ寄ってみた。改めて来てみる
 と、やはり凄い場所にあると実感する。井川線に見られる低いホームと低規格の細い線路が独特な雰囲気を醸し出していた。駅の周囲にはゴミ一つ落ちていないし、自
 販機や広告の類も一切無いので、現代文明から取り残されたような、ある意味でいう不思議な空間が広がっている。そんな純粋無垢のような駅へ小さな列車がやって来
 た。可愛らしい列車だが、周囲の住民にとって大切な足となる頼もしい存在なのである。