2001/07/28 作成

郷戸駅

只見線 “郷戸駅”  集落から離れ、闇夜にぽっかりと浮かび上がったこの駅に、集まってくるのは虫ばかり

    

石段を登り詰めると、林の中にポツリとカプセル型の待合室が出迎える   締め切りが可能だが、その窓は全く開かないため、内部はかなり蒸し暑かった


   訪問日記   2001年7月20日 訪問

  ここは、只見線の“郷戸”という小駅である。駅の入り口は、未舗装の駅前広場から石段を登った高台にあり、比較的奥行きのあるホームには以前、駅舎が建っていたものと
 思われる。辺りは林に囲まれ、国道からも遠く離れるため、まるで神社のように静かな雰囲気である。周囲に人家は3軒ほど点在しているが、田圃と畑が広がっているだけで、
 人通りはほとんどない。

 今回、この駅の訪問は夜間になってしまった。北陸本線の筒石駅を訪れた後、直江津から特急“はくたか”に乗り、越後湯沢で下車。ここで駅併設の温泉に入ろうかと思ったが、
 猛暑のため、湯上りは“滝汗地獄”になることが予想された。予定を変更して、“ぽんしゅ館”で500円也を払ってお猪口5杯のほろ酔い気分を味わう。さらにチューハイで仕上げを
 しながら、強く冷房の効いた長岡行きの普通電車に乗りこんだ。列車が発車すると心地良い揺れに、しばし居眠りしながら小出駅へ到着。4分の乗り継ぎで只見線に乗車するこ
 とになった。非冷房であるキハ40形の窓を全開にして、ゆらゆらと入りこむ心地よい風に身を任せ、窓際の席へとへたり込む。やがて山間部へと入って高度を増して行くと、心地
 の良い冷風へと変わって行った。大白川駅で対向列車とタブレット交換して、車窓に迫る渓流を眺めつつ、難所である六十里越トンネル(6359m)に突入。上り坂を延々とエンジ
 ンが焼き付いてしまうのではないかと心配するまで唸りを上げる。まるで耳の感覚が麻痺してしまうほどの騒音だが、30Km/h程度でノロノロと進むこの非力な列車にとってはま
 さに“断末魔の叫び”に思えた。こうしてスノーシェッドに囲われた田子倉駅で2人の登山者が降りて行き、日もとっぷりと暮れた頃、ようやく目的の郷戸駅へ到着した。

 列車を降りて、辺りの散策をするにも街灯一つ無いので、持参した懐中電灯を持って恐る恐る階段を降りていく。砂利敷きの駅前広場には人家は全く無く、真正面には細長い建
 物のトイレがあった。普通こうしたトイレという設備は、敷地の端にひっそりとあるが、何故かここでは真正面に建っている。利便性を優先させたのか、デリカシィーが無いのか知
 れないが、この無人地帯といえる界隈では関係ないのであろう。周囲の探索を終え、カプセル型をした待合室に戻るが、扉を開けると熱気がムンムン。特急列車のような固定窓
 は気密性こそ高いが、当然ながらエアコンなど有るわけも無いので蒸し暑いこと甚だしい。更に電灯に集まる虫の数に驚く。なまじ建物の色が白いので、集客効果は抜群だ。
 薄気味悪い幾種類の蛾のほかに、クワガタムシ、カナブン、コガネムシ、カミキリムシ、セミなどそのレパートリーは非常に数いものであった。やがて、会津川口行きの列車が来
 たので乗車する。次に降りるのはいよいよ今夜の宿となる早戸駅だ。漆黒の山中をエンジンを唸らせ、この虫たちで賑わう駅を後にした。