2008/9/4 作成

玉桂寺前駅



信楽高原鉄道「玉桂寺前駅」 集落から離れ、林の中に隠れるように存在していた

      

待合所は庇だけで4連プラベンチがWで並ぶ     駅前は一面の田圃、そして吊橋が掛かる清流     林の中を抜けて一番列車がやって来た


   訪問日記   2008年7月9日 駅寝訪問

  ここは、信楽高原鐵道・信楽線にある小さな無人駅である。もとの旧国鉄・信楽線時代には存在しなかったが、第3セクターとしてこの鉄道が転換された
 1987(昭和62)年7月13日、同線の紫香楽宮跡駅とともに開業している。ホームの前には一面田圃が広がり、その先には清らかな川が流れていて、背後は
 鬱蒼とした林といった状況だ。一方、集落は国道の方向へだいぶ歩いた所にあり、車の騒音よりも川のせせらぎだけが聞こえるような、とてものどかな雰囲
 気である。ここには駅舎らしきものは無いが、雨よけの庇に4連プラベンチがパラレルで装備されているため、駅寝定員は都合2名と言ったところか(笑)。
 駅の周囲は散策する所が色々あって楽しい。まず、駅まで続いた車道のどんずまりから、山道を少しばかり歩たところに、“保良の宮橋”という吊り橋が掛か
 っていて、線路を俯瞰することができる。更に川を渡って対岸へ行くと、この駅名の由来となった「玉桂寺」があり、中には重要文化財の木造の阿弥陀如来
 立像や滋賀県指定天然記念物の高野槙があるそうだ。しかし、遠目に見た看板には「玉桂寺・薬湯〜 …2500円」とあり、体には良い効果があると思うが、
 経済的には悪い効果があるため、残念ながら私の軽薄な財布から旅立つことは無さそうだ。

 さて、今回は近畿地方の秘境駅訪問をすることになった。当初、列車での訪問を考えたが、調査するエリアが広範囲のうえ、2日間だけという厳しい日程が
 課されていたこともあり、機動性を重視して愛機のバイク“HONDA トランザルプ400V”で巡ることになった。もちろん出来ることなら、鉄道で行く方が旅情も
 高まり、より良い旅が出来るのも解っている。しかし、秘境駅訪問を行うにあたり、場所によっては列車にこだわり過ぎると時間の浪費を招き、嵩む費用とも
 に非現実的なものになりやすい。サラリーマンを兼務する傍ら、生活し得るうえでも金銭の浪費は避けたいもの。〜ということで、今回はツーリングレポート風
 になってしまうことを、お断りしておこう。

  自宅を出たのは7月8日の夜19時頃、カメラバッグを42LのトランクBOXに収め、背中にはシュラフとマットを備えた駅寝装備で満載のザックを背負い、山陽
 道の三原久井ICまで田舎道を50分あまりを走る。今回は長距離の高速走行となるため、最新兵器を用意した。そう、ETC車載器である。もうお気づきの方も
 いらっしゃるかと思うが、夜間走行の0時〜4時までは4割引きになるためだ。2輪では初めて利用するので、カード挿入をしっかり確認し、いざゲートへ!これ
 で開かなかったら、間違いなくウエスタン・ラリアットを食らってしまうので、20km/h程度で恐る恐る進入したが、道は開かれた!(当然) これに一安心して、
 大阪方面へ向け順調に走行。隣の追い越し車線から好奇な視線を感じる。まあ、日頃から他の乗客の視線を受け、数々の秘境駅に降りている自分にとっ
 ては慣れていることだが。夜の京阪神の街並みを横目に、草津田上JCTから今年の3月15日に開通した“新名神高速”へ入った。しかし、このゆったりした
 幅の広い車線はどうだ。トンネルだって壁が思いっきり遠く、そして恐ろしくデカい。これが本当に日本の高速道路なのか?車体の性能があって、そこまでス
 ピードを出して許されるのなら、ふつーに200km/h以上で走れそうな高規格道路である。いやいや、良く先は長い、流石に疲労で眠い、ここは安全運転でノ
 ンビリと流そう。こうして、革新的道路も残念ながら一つ目の信楽ICで降りてしまう。午前0時までのカウントダウンを確認しながら、0時10分無事にゲートを通
 過し、当初の目的であった4割引きが享受できたことを報告しておく。

 しかし、信楽ICからは無情にも雨が降ってきた。仕方無いことだが、国道307号線を目的の駅を行き過ぎないように、濡れた地図を確認しながらゆっくりと進
 む。適当にアタリを付けた農道を闇に向かって突き進むのだが、いきなり行き止まり。マジで田圃に落ちそうになった!雨で視界が効かん、ヤバイ!Uターン
 して遠くを一瞬ライトに当たる駅のホームらしきものを発見、ようやく辿り着くことができた。本当に目立たないところにある駅だ。バイクを止めエンジンを切る。
 聞こえてくるのは川のせせらぎだけ。実に素晴らしい!ただ、雨が降っているので、行動は翌朝に持ち越そう。早速、ホーム上の庇の下にある4連プラベンチ
 の上にエアマットを広げ、薄い夏用のシュラフに入り込む。幸い風が無いので、雨がこちらに吹き込むことは無く、安心して眠れたことが唯一の救いであった。

 翌朝5時の目覚ましアラームで半強制的に起床。4時間あまりの睡眠だが、運よくベンチから落下することもなく、意外と清々しい目覚めだ。多分はやる期待
 に胸がときめいたのであろうか(笑)身支度を整え、カメラを持って周囲の撮影を行い、吊り橋の上に立つ。丁度そこへ信楽発貴生川行きの一番列車がやって
 来た。以外と乗客が居るではないか!ガラガラな車内を想像していたが嬉しい誤算だ。鉄道の良さが再認識されているのか?ふと気が付くと、やはり自分は
 鉄道好きなんだ。あの2本のレールが好きなんだ。そのレールは遥か遠くまで続いているんだ。そう思うと、無性に列車へ飛び乗ってしまいたくなった。