2001/8/31 作成   

居組駅

山陰本線 “居組駅”  広い構内を誇示するかのような立派な駅だが、人里離れた山間にひっそりと佇んでいる…

      

  たった今乗って来た列車が山の中にエンジンを轟かせて吸い込まれて行く    駅舎は瓦葺きの屋根が特徴で、風格が有り素晴らしい

       

駅は集落から遠く離れており、人家は3軒程しか見えない     駅前に自転車が6台あって、駅舎の軒下が立派な駐輪場と化していた


  
 訪問日記  2000年8月12日 訪問

  ここは、山陰本線の浜坂-鳥取区間の山中にあり、兵庫県の端に位置する閑静な駅。周囲に見える人家は3軒に過ぎず、集落から細い車道を600mほど上った所にある。
 だが、そんな小駅に似つかわしくない瓦葺屋根の立派な駅舎、交換設備と側線を備えた広い構内、さらに駅前には池をあしらった洒落た純日本庭園風の箱庭が鉄道全盛
 期の栄華を物語っていた。しかし、駅舎こそ手入れされているようだが、件の日本庭園は荒れ放題で、いささか勿体ない気持ちにさせる。それでも駅舎の軒下には自転車
 が数台ほど停められ、少ないながらも乗客が存在していることが、地域の人々の大切な足として活躍している証左であった。

 一方、待合室には造り付けの長椅子があり、今回の中国秘境駅訪問旅で鳥取方面へ向かっていた私は、夏の暑い昼下がりにこの駅で途中下車して、昼寝タイムとした。
 前夜は夜行快速の「ムーンライトながら」による睡眠不足もあって、短い時間であったが、かなり熟睡してしまい、時計のアラームが鳴るまで起きることはなかった。その間、
 誰一人訪れた人はなく、とても良い目覚めが得られた。やがて、乗車する鳥取行きの列車がやってきて乗り込む。昔の風情そのままの雰囲気を残したこの駅を、キハ40型
 の普通列車はエンジンを山間に轟かせながら発車していった。


       

 
正面の駅名板は重厚な板に筆書きで、その風格を今に伝えている  有人駅の時代にはきちんと手入れされていたと思われる、日本庭園風の池がある

       

幾多の乗客を迎え、そして見送る   この木製の改札口はいつも見守ってきた   建物財産標には駅舎上屋の落成は明治44年の3月と記されている

    再訪日記  2001年8月8日 再訪

  今回、私は18きっぷによる「日本一周秘境駅訪問旅」の途中にここへ降り立った。もっとも昨年訪れているので、再訪というかたちになった。不思議なことに、こうした駅は一度
 訪れただけでは、本当の姿を見せてはくれないようだ。四季の移り変わりによる外的な変化だけではない。見る者の視点や感覚が様々な要素によって変化するようだ。同じ駅で
 も違ったように見えたのは、ささやかながら自身の成長の証なのか、それとも老境への誘いなのか…。

 私は秘境駅訪問を始めた当初、それこそ夢中になって全国を駆け巡っていた。そこで得たものは、確かに訪れたという記録こそ残ってはいるが、見落としているモノも数多い。
 例えばこの駅舎が「明治44年3月」に建てられたという事実も、資料やそれなりの文献を調べれば判るのかも知れないが、こうして実物を注意深く観察して行くと新たな発見があ
 る。一見すると同じような木造駅舎でも、昭和中期までに建てられたものと、明治、大正のそれとは造りが微妙に異なっている。鉄道というものが珍しく、特別な存在であった明治
 時代には、神社仏閣で培った独自の文化と技術を随所に取り入れ、小さな装飾の一つ一つにまで職人の意地と頑固さが伝わってくる。やがて、国家事業として急ピッチで鉄道建
 設が進み多くの駅が誕生した。だが戦時下では、資材だけでなく心のゆとりも次第になくなり、その造りも場当たり的で簡素なものになってしまった。このような駅舎は文化遺産に
 も値せず、返って寿命を短くさせているようだ。さらに、新幹線の駅などは近未来的な造形へと変わっていったが、果たして本当に来世への文化財産と成り得るのか、いささか疑
 問ではある。

 さて、今回私は日本一周秘境駅訪問旅のまっ最中、同じ山陰本線の“飯浦駅”で駅寝の朝を迎え、一番列車に乗り込み出発した。益田で乗り換え東へ進み、出雲市へと到達。
 ここからは今年の7月より走り出した新鋭キハ187系の気動車特急「スーパーくにびき4号」で一気に鳥取まで向かった。久しぶりの特急は、速くて快適、思わず眠気に襲われてし
 まう。だが、特急列車といえども2両編成であり、前頭部がスッパリと切り落とされたその姿は、通勤電車のような貧困的デザインを感じてしまった。こうして鳥取に到着すると、
 フラフラと駅弁屋の前に吸い寄せられて行く。そう、“元祖・かに寿司”である。これを見逃すことはあり得ないほど美味い、山陰の名物駅弁である。早速、食すると思わず顔がほ
 ころんでしまう。貧乏旅行なので滅多に駅弁は食べられないが、久しぶりに贅沢をするのもタマには良いものだ。こうして鳥取県の県境を過ぎ、兵庫県に入ったた最初の駅になる
 居組へ降り立った。暑い日差しが照りつける昼下がり、一緒に降りた3人の小学生は、駅前に止めてあった自転車に乗って行った。辺りはセミの鳴き声だけがけたたましく鳴り響
 いているだけで、私は一人周辺の散策を楽しむのであった。