2000/11/17 作成

尾盛駅

大井川鉄道・井川線 “尾盛駅” 人家は勿論、車道や歩道も存在しないという駅に果たして乗降客は居るのであろうか…

      

使われていない駅のホームに狸の置物が出迎える     戸締りされた物置の軒下で、暫し雨宿りをする      深い山中で、人間の営みを一切感じない… 

   訪問日記  2000年11月16日 訪問  後年、再訪実績あり

  今回は大井川鉄道・井川線の秘境駅訪問として、この地へクルマでやってきた。本来、駅訪問とは列車を使って行うのが正道であることは重々分かっている。しかし、天候
 の悪化や交通の便や時間的制約のほか、比較的近いものの以外とかかる費用等で列車での訪問は叶わなかった。お昼前に八王子を出発し、厚木I.Cから清水I.Cまで東名
 高速を使い、早々と静岡入りを果す。コンビニでざっと食料調達をして、いよいよ奥川根路を目指すことにした。クネクネと山岳路特有の狭い国道と県道を経て、だいぶハンドル
 を回す腕が疲れた頃にやっと、大井川鉄道のある笹間渡へと抜けた。駅へと向かうと、なかなか渋い駅舎があるではないか!そして偶然にもC56が牽引する“SL急行”がやっ
 て来た。オハ35などの旧客を従え威風堂々とした編成に独特の汽車の香り!木造の内装が光る本物の渋さ!乗りたい…。そんな衝動を堪えるのに必死だった。今度は必ず
 乗車しようと決心する。こうして他に数駅を訪問した後、辺りがすっかり暗くなってしまい、井川線の接阻峡温泉駅前の露天風呂に入った。旅の疲労も吹き飛ぶ気持ち良さで、
 それ以降の行動はビールを優先させたため中断。降りしきる雨の中、荷室にマットを敷いて寝床を造り車の中で泊った。

 軽い朝食を取って始発列車が出る前に尾盛駅の一つ先にある“閑蔵駅”への訪問を果たす。そして再び接阻峡温泉へ戻って駅前に来た。前置きが長くなったが、いよいよ井
 川線に乗車し、“尾盛駅”へ訪問することにしよう。ちなみに列車以外で尾盛駅への到達はほぼ不可能である。車道はおろか、連絡する歩道さえも無いという凄まじさで、北海
 道の室蘭本線にある“小幌駅”とほぼ同じ条件だからだ。ただし、列車本数は多客期であれば比較的多く出ているため、列車での訪問は容易い方である。それでも周囲に人家
 は一切無く、その昔、林業が盛んだった頃には集落もあったらしいが、その面影はもはや無い。当然、利用者は皆無に等しく、山仕事をする人、付近の山々を知り尽くしたマニ
 アックなハイカー、そして極稀に私みたいな物好きな秘境駅訪問家が訪れるだけである。

 さて、かような場所だから、4×4でもオフロードバイクでの到達はおろか、へっぽこ登山家級の私の足でも刃が立たない。生憎の雨だし、遭難騒ぎでも起こしたら洒落にならない
 ので、DLが押すタイプのミニ列車に乗って、ガタガタとノンビリやって来た。朝一番のDLを除く3両の客車には、3人ほどの乗客しか居らず、閑散としていた。若い車掌に尾盛駅
 までの切符を求めた。氏に聞けば、この駅を利用する人はほとんどど居ないそうだ。他へ続く道も一切無いので、井川から折り返してくる列車を小一時間待つこととして、礼を
 言って降りた。手動のドアを開けてもらうと、そこにはホームと呼べるものは無いが、ミニ列車ゆえ地上との高度差が大きくないので不要だった。ちなみにトップの写真にある
 “砂場”を思わせる土盛りがあり、そこが正式なホームとなっている。

 興奮しつつある気持ちを抑えながら周囲を探索する。一言で感想を言うと、「ここに人間の居場所は無い」。近くに廃墟化した不気味な保線小屋らしきものがあって、なかは古い
 家財道具が散乱していた。現在ではホーム上のプレハブ製の小屋が保線機具置き場となっているようだ。一通り写真を撮ると、雨が激しく降ってきたので探索を中断。例のプレ
 ハブ小屋の左側に開いている軒先で雨宿りとなってしまった。小一時間の列車待ちの最中、野犬の遠吠えが聞こえてきた。そのうち何だかだんだんと近づいて来る気がする!
 殺気が走る!小屋には鍵が掛かっていて入れず、身を守る唯一の手段は…? 「攻撃」しか無い! 適当な棒切れを用意して、しばらく身構えていたが、とうとう奴らがやって
 くることは無く、杞憂に終わった。そうこうしているうちに、定時キッカリに井川から折り返して来た列車を見て正直ホットした。こんな小さな列車でもこの時ばかりは逞しさを感じた
 ほどだ。それでも、このズクゾクするスリルいっぱいの駅へまた訪れたいと考えている。