2004/06/18 作成

大張野駅



最終列車が去って行った後、誰も居ないホームに深々と雪が降り積もる

      

元有蓋貨車の簡素な駅舎だが、それなりに見せようと苦心の跡が      一夜が明けた早朝、真綿のような大雪が辺り一面を覆い尽くした


  訪問日記   2004年3月4日〜5日 駅寝訪問

  この“大張野”という駅は、県庁所在地のある奥羽本線の秋田駅から僅か3駅目のところに存在している。同区間は新幹線「こまち号」が走る秋田新幹線と併用されており、
 今日における首都圏との重要な連絡ルートにもなっている。しかし、駅の周辺環境は私の想像を遥かに越えていた。大抵の場合、県庁所在地にもなる大きな都市からわずか
 3駅しか離れていない駅というものは、通勤通学のためベッドタウンとしての街が形成されることが多いからだ。ところが、鉄道防風林と僅かな平地が望めるだけで、全くの大自
 然に囲まれており、人家と呼べるものは商店が1軒、離れたところに3軒ほどがようやく確認できるだけという状況であった。今まで数多くの秘境駅を訪問調査して来た私にとっ
 て、カルチャーショックなこと。このように隠されたような秘境駅がまだまだ存在していることに、驚きを止めることが出来なかった。

 今回、私の秘境駅訪問旅は東北地方に定めた。今まで数多く訪れていた地だが、新たな秘境駅を発掘すべく自宅のある広島県から青春18きっぷを使って旅の歩みを進めて
 いた。人影も疎らな新庄発の最終列車に乗り込み、真っ暗な雪深い山中を延々と走り続け、日も変る寸前となる23:57にようやく駅に到着。ワンマン運転であるため、持ってい
 た青春18きっぷを運転士に掲示してからホームへと降り立つ。その際、運転士氏は作り笑いを浮かべながら、何やら訝しげな目付きでホームの待合室へと歩みを進める私を
 見送るのであった。まあ、こんな夜中に冬山登山者風の格好をした男が、普段誰も利用しない時間にひとり下車して行くのだから。

 今夜の宿となる待合室は、アルミサッシでぴったりと締め切りが可能で、寝床となる造り付けの長いすも完備されている。快適な設備に、すっかり安心したのか、急に空腹が込
 み上げてきた。新庄駅で仕入れた弁当を、わずか5分程で食し、ワンカップの日本酒を煽るとようやく人心地が付いた感じになった。エネルギーを充電し終わると身体は、半ば
 条件反射的に動き出すかように、カメラと三脚を担ぐと大雪降りしきるホームへと飛び出すのであった。真夜中の静寂感、ぼんやりとした明かりに照らされたホーム、実に素晴
 らしい! こうして当時の模様を書いていると、かような奇行に対し反省すべきものが多分にあるが、ここは本能に任せて行動する喜びを味わうことが秘境駅訪問旅の醍醐味
 といえよう。 翌朝まで延々と降り続いた雪は、周囲の風景を更に白い厚化粧へと変えて行く。翌朝5時半頃に起き出した私は、予定通り一番列車へと乗り込むのであった。