2001/05/31 作成

竜ケ水駅

日豊本線 “竜ヶ水駅” 海岸線まで張り出した急斜面の山塊からは、過去に大規模な土石流が発生した

      

駅舎は白いコンクリート製の吹き抜けタイプで     内部にはプラベンチが4脚あるが、いずれも桜島の火山灰で汚れていた

      

駅を埋めた大規模な土石流が発生した現場は、現在ではしっかりとした砂防壁で固められている    正面には錦江湾を挟んで雄大な桜島を望む

   訪問日記   2001年5月10日 訪問

  この“竜ケ水駅”は大きな災害現場になったところだ。平成5年8月6日鹿児島県下を襲った記録的な豪雨は、甲突川の氾濫によって鹿児島市中を水没させるほどの大規模な
 ものになった。各地で崖崩れや土石流による災害が相次いで発生し、交通機関もこの日豊本線を含めて多くの道路網も寸断された。この駅も例外ではなく、駅の裏山から発生
 した土石流は錦江湾へ達するほどの勢いで、周囲の人家とともに駅もろとも大量の土砂に埋まってしまったのである。当時、豪雨によって足止めされていた上下2本の列車が
 停車していたが、そのうちの3両がその直撃を受けて大破してしまった。このように危機的な状況であったが、乗務員による咄嗟の機転によって乗客は安全な場所へ誘導され、
 避難した320人にも及んだ。間一髪、土砂崩落寸前に脱出したため全員が無事であっが、列車から降りることを拒んだ3名の乗客は残念ながら死亡した。まさに奇跡的な出来
 事だが、普段から乗客を守るために安全意識が高かったことの現れであり、鉄道員としての誉れである。そして、日豊本線も昼夜を問わず関係者の尽力により、44日目の9月
 15日に再開を果たした。
 
 今回、私は南九州を中心に秘境駅訪問を目的として旅をしていたが、この駅は普通列車でも停車する列車が半分以下であり、急な崖の下のため、集落が形成されていないと
 いう立地条件に興味がそそられ、降りてみることにした。ここは県庁所在地駅の隣にある駅でも関わらず、駅の周囲に人家は7〜8軒軒ほどしか見えない。しかし、並行する国
 道はなんと片側2車線で交通量が多い。おまけに、駅の真下はガソリンスタンドで秘境という雰囲気には程遠い。それでも人家が少ない、通過列車が多いという双方の条件を
 有するため、秘境駅として紹介することにした。

 今回私は、吉松駅から乗車した肥薩線を隼人駅で日豊本線へ乗り換え、波静かな錦江湾にそびえ立つ雄大な桜島を眺めながらこの駅へ降りた。乗ってきた列車には私以外
 誰も乗降することなく、列車が行ってしまうと私だけ一人がポツンと残された。まさに秘境駅に乗降した者のみが体感するワンシーンだ。昼下がりの強い日差しは容赦なく照り
 付け、撮影しながら歩き回るごと疲労していく。こうして、あの災害から8年後たった現場は、強固な砂防壁に固められた姿に驚嘆しつつも、当時の姿のまま土石流の爪あとが
 生々しく残る廃家にも目が移ってしまうのだった。ホームの災害復旧記念碑なども眺めつつ、雄大な桜島の姿を存分に満喫していると、ほんの30分ほどで列車はやってきた。
 やはり誰も降りず、私だけが一人乗り込むだけ。475系の元急行型電車はローカルな味を残しつつ、大規模な災害から立ち直った駅を後にした。