2001/05/07 作成
千代駅
飯田線 “千代駅” 駅前には人家が1軒だけ存在し、家から演歌が流れるゆるやかな午後
待合所は吹きさらしだが、暖かなお昼の一時を過ごすには十分だ。 駅前に自転車置き場があるが、オートバイが1台と壊れた自転車が2台だけ。
訪問日記 2001年5月5日 訪問
この駅は、今まで飯田線の秘境駅を幾度か訪れたなかでも気にななる存在であった。だが、同沿線に数多くある秘境駅のレベルが高いため、訪問の対象外としていた。
駅名そのものは、“千代”という縁起の良いイメージとあって、小和田雅子様ご成婚ブームの際には、小和田駅からここまでの乗車券までも発売され、一躍有名にもなった
こともある。取立て見所というものは無いが、正面にはゆったりと流れる天竜川を望める。休日になると“川下り船”の案内のアナウンスと共に乗客たちの歓声が響き渡り、
ひととき観光地の側面を垣間見る。駅の裏には1軒だけ人家があり、他にはない。同名の集落はそこから坂道を5分ほど上がった所にある急傾斜地に存在する。駅の構造
は、一面一線のホームに小さな待合所がある標準的なタイプ。ただ人家の庭先と繋がっているためか、ホームにもたくさんの花が植えられ美しい。落書きの類はもちろん、
ゴミひとつ落ちていないという、素晴らしい駅であった。
ここはその昔、正面を流れる天竜川での砂利の採取をしていた貨物駅としても知られる。川面から索道を使って砂利を引き上げ、本線のトンネル脇のホッパーから、無蓋
貨車へ積み込んで輸送していた。コンクリートの材料として、数十年前の高度経済成長を陰から支えた大切な駅であった。具体的に使われた場所を知る術はないが、数多
くのビル、新幹線や道路の橋脚など、あらゆる現場で“千代の川砂”が使われたのであろう。
私は、田本駅と中井侍駅の訪問を終え、ここへやって来たのはちょうどお昼時であった。駅前の人家から演歌が大音量で流れているのに苦笑してしまったが、近所迷惑と
は一切無縁の世界なので、こうした事も許されるのであろう。今朝がた豊橋駅で買出しをした“おにぎり”を2個ほど頬張りながら簡単な昼食を取り、辺りを探索していると子
供連れのおばさんに出会った。まさしくこの家の住民で、駅のことを色々と話して頂いた。昔は砂利の運搬でたいそう賑わったとか、集落から離れているので回覧版を回す
のに一苦労とか、自然はたくさんあるが、不便な所で車が無いとやっていけない〜 など とりとめのない話しが続いた。そして、昨日に蓼科にある白樺湖ファミリーランドへ
親戚と行って来たというが、渋滞が酷くてホトホト疲れてしまったという。「タマには人並みなことしたくて」という言葉が印象に残った。
やはり人工的に造られた観光地で人ごみに揉まれるよりは、こうして自然のなかでノンビリする方が私は良い気がするのだが、普段からこうした場所に住んでいる人にとっ
ては、物足りなさを感じるのだろう。そんな話を聞きながら、列車を待つ小1時間はほとんど退屈しなかった。やがて来た列車は車内が混雑していて、今までの雰囲気が一
気に萎えてしまった。このまま乗るのを止めてしまおうと思わせるほど、とても長閑な駅であった。