「秘境駅を見つける旅」

 「そんな駅、どうやって調べたの?」今まで出会った多くの人に聞かれる。誰もいないような辺境の地へ旅する
 変人を前にして、このような疑問を持つのは自然の摂理だ。不確かな情報しかなくても、イチかバチかの賭け
 に出るように、思い描いた駅を探し求めて出かけて行く。その中には大きな集落が形成され、私の中で考えて
 いる“一定の水準”に達しなかった駅も数多い。そんな時、思いがけず素晴らしい駅に出会うことがある。
 重厚で荘厳な雰囲気の古い木造駅舎を持つ駅。新設路線にあっても長いトンネルに挟まれ、薄暗い森林の
 なかにある駅。そんな意外性に“発見”の喜びを見出し、次なる刺激を求め、再び旅立つ。そんなことを繰り返し
 ながら、今も秘境駅訪問の旅を続けている。

 そんな摩訶不思議な存在感を放っている秘境駅。このような駅を探し出す時は、インターネットによる“駅名検索”
 が手っ取り早い。また電子地図や衛星写真サイトの“Google Earth”を活用すれば、新しい秘境駅を発掘できる
 かも知れない。また、最近の鉄道車両は前面展望の利くものが多くなったので、目標にしていた駅で降りるか否か
 の判断も付けやすくなっている。手前味噌だが、私のサイトも含めて沢山の情報を手軽に得られるようになった。
 未知への期待感は少しばかり薄れたが、“期待の空振り”という、大きなリスクを回避できるようになったことは
 喜ばしいことだ。

 ここで最も重要なのが、旅のバイブルである“大型時刻表”だ。それは経路や時刻を調べて計画を立てる役割だ
 けでなく、秘境駅探索においても重要なヒントが隠されている。なかでも普通列車でも通過を示す「レ」のマークが
 多い駅は秘境駅の可能性が高い。地図を見て、国道や県道などの幹線道路から遠く、峠になっている山深い
 地域(県境に多い)の場合は、更に期待が高まる。これらは有史以来、峠を越えての交流は地形上の困難を伴う
 だけでなく、県が国であった時代には、互いの行き来が容易でなかったことにも由来している。また合戦場だった
 場所もあり、集落が形成され辛かったという事情もあるようだ。

 県境の峠には勾配に弱い鉄道を運行する上で、必要不可欠な存在(スイッチバックや信号場)だったところが、
 駅になっていることもある。このような駅には蒸気機関車が全盛だった時代の“鉄道遺構”が残されている場合が
 あり、実に興味深い。更に、その生い立ちにも様々な理由がある。過疎化により離村してしまったもの。大規模な
 自然災害で駅を含めた集落全体が失われたもの。新設路線に多くある、路線全体の線形を維持するため、
 利用目的となる集落から遠く離れてしまったもの。このように複雑な事情を抱えながら、秘境駅が生成される
 必然的なメカニズムが存在している。

 こうした駅に興味本位で訪れることは、生活している人にとっては、心の奥底で許しがたい感情を持っていること
 もある。昨今の日本では犯罪が増加し、治安の悪化が心配されるなか、不審者に間違われることも念頭におきた
 い。そこは観光地ではなく、少ないながらも人の住んでいる地域だ。旅人の礼儀として、地元の人に出会ったら、
 挨拶をすることも忘れずに。くれぐれも失礼の無い行動を取って欲しい。秘境駅を訪れることは、時代の現実を
 知ること。大自然の厳しさ、有り難さをリアルに感じられることだと思う。私は読者の皆さん、一人ひとりの心底に
 残る、楽しく有意義な秘境駅訪問旅をしてもらいたいと願っている。


                                           2009年6月17日  秘境駅訪問家 牛山隆信