2000/1/16 作成

中井侍駅

飯田線“中井侍駅” 信州最南端の駅は人家が2軒だけの崖っ淵の駅だった

      

“侍”と付く不思議な駅名は意味ありげだ      待合室は吹きさらしの簡素なタイプ       駅からの道は狭い急勾配の道が続く

  訪問日記  2000年1月13日 訪問

  ここは長野県の最南端に位置する辺境の地。両側をトンネルに挟まれた急傾斜地で人家はわずか2軒しか存在しない。外界から続く車道は限界的に狭く、仰け反りそうな
 急坂とともに、おびただしく屈曲する。場所によってはスイッチバックを余儀なくされ、軽自動車以外での到達は物理的にも不可能だ。県内でもとりわけ気候が温暖である一方、
 地形の厳しさから一般の作物は栽培に適さないため、眼下には茶畑が広がっている。さらに天竜川から立ち昇る川霧が、茶葉の生育において絶好な環境を供することもあり、
 香り高く良質な“中井侍銘茶(やぶきた茶)”は高級ブランドとして知られている。もはや居住には絶望的と思えてしまいそうな土地だが、ここにしかない価値あるものを生み出
 したことに、地域の人々の努力と苦労が偲ばれる。飯田線という一筋の路線で繋がる秘境駅の数々。変わり過ぎてしまった現代社会において、昔の生活の一端が感じられる
 貴重な存在といえよう。

  さて、今回の「飯田線秘境駅訪問旅」も第3回目となり、八王子の自宅から冬の18きっぷを利用してフラリとやってきた。生憎の雨で気分はブルーだったが、飯田線に乗るだけ
 で秘境駅を周れることで、充実した時間が過ごせる。先ほど訪れた“為栗駅”から僅かの時間で到着したこの駅は、裏に人家(製茶農家と思われる)が2軒ある他は本当に何も
 無い。ここへは少しばかりの本数しかない電車でも苦労せずに訪問できるが、車やバイクではそれこそ大変なことであろう。眼下の急斜面に広がる茶畑と天竜川の雄大な流れ
 を眺望する。上下列車を組み合わせた訪問の中で、20分間あまりという短い間ではあったが、なかなか居心地の良いひと時を過ごせた。やがて迎えとなる電車がやって来たの
 で乗車する。素彫りのトンネルの中で、レールを“ギーギー”と軋ませながら、ノンビリと進んで行った。