2007/07/28 作成

那良口駅



肥薩線“那良口駅” 球磨川の流れを望む静かな佇まいの駅である

      

駅舎はコンクリート製の簡易な待合所のみ    周囲に人家は見当たらない    ホームは有効長が長く、なかなか歩き応えがある


   訪問日記   2003年3月8日 訪問

  ここは、八代駅を起点として球磨川沿いを走る肥薩線の“那良口”という小さな駅である。ホームから人家は見えず、小規模の畑が点在するだけで、これといって目立つような
 ものは無い。最寄の集落は、およそ200mほど人吉方面へ歩いた場所にあるが、駅前は朽ち果てた農機具倉庫ぐらいしかなく、閑散とした雰囲気であった。そんな何もないような
 駅であっても、開業は明治43年と古く、周囲の国有林から伐採される木材を輸送するための貨物駅として造られた。その後、大正2年からは旅客も取り扱いようになり、活況を呈
 していたようだが、月日は流れ、車社会が主流となった現代においては利用者はごく少数になったことは想像に難しくない。さらに国道は球磨川を挟んで対岸を通っているため、
 こちら側の狭い車道は、ほとんど車通りが無く、人の気配さえ感じられない。さらに古い駅舎が建っていたと思わしき基礎部分に、コンクリートの待合所が建てられいるだけだ。
 当時の面影を残すものは、ここが鹿児島本線であった名残りの、長大編成を受け止める長いホームに留まるのみだ。

 今回の秘境駅訪問旅は、まだJR腺の全線完乗を果たしていないため、九州では最後に残した“宮崎空港腺”と、旧国鉄湯前腺が3セク路線化された、“くまがわ鉄道”を乗車す
 る目的と合わせ、新幹線“ひかりレールスター”で九州入りした。しかし、時は既に深夜となり、小倉から夜行特急「ドリームにちりん」を今夜の宿とした。旅の始まりはいつもなが
 ら思うが、様々な期待感と好奇心で脳が活性化され、得もいわれぬ興奮を覚えなかなか寝付けないものだ。それが夜行列車では顕著に現れてしまい、大抵は翌日の行動に“
 居眠り”という失態を犯してしまう。翌朝、そんな想いで緊張しながら、終点の宮崎空港駅まで乗り通し、“宮崎空港腺”の完乗を果たす。何の特徴も無い真新しい駅に大して興
 味を抱かないまま、10分ほどの短い滞在で南宮崎へと戻った。こうして日豊本線で都城、吉都線で吉松、さらに肥薩線で矢岳の峠を越えて人吉入りするという、通常では考えら
 れないようなルートをたどって来た。さらに“那良口駅”の訪問前に、“くまがわ鉄道”を終点の湯前までピストンで乗車してみた。やはり何の変哲も無い田園地帯を淡々と走る感
 じで、正直あまり面白みを感じなかった。それでも終点の湯前駅は古い木造駅舎が残っており、列車折り返しの少しばかりの時間ではあるが、興味深い対象であったことを、く
 まがわ鉄道の名誉のために付け加えておきたい。

 こうして人吉駅へ舞い戻ってきて、普通列車に乗車する。車内はかなり混雑していたが、何とかロングシート部分に座ることが出来た。ところが後に思わぬ災難が降りかかって
 来るのであった。一人の酔っ払いが缶ビールを片手に大きな声を発しながら周囲の人に絡んでいた。最初は20代ほどの若い女性で、彼女はもの凄い形相をしながら必死に無
 視をしていた。次に50代くらいのおばさんに絡みかけていたが、突然、隣に座っていた私にその矛先を向けて来た。私の格好は、その場に似つかわしくない大きなザックと三脚
 、カメラバックなどを抱えていた。恐らくあまりにも不自然な姿に興味を抱いたのだろう。彼は「何をしている?」「何処で降りる」と執拗に聞いてくる。初めは無視を決め込んでいた
 が、周りの乗客も意図的に目を逸らしてしるのがマジマジと解った。しかし、私はこの時、このオッサン何を考えているのか?よせば良いのに自らの好奇心に負けてしまい、単語
 ではあるが少しづつ話し相手をしてしまった。それが後に大後悔することになろうとは、その時知る由も無かった。列車は西人吉、渡と停車しながら、とうとう私の降りる予定の
 那良口駅へと近づいてきた。まさかこんな駅で降りて来ないだろうとタカを括っていたが、事態は予想外の展開になった。私は降りるべく無言で席を立ち、ワンマンカーの前方へ
 と歩いて行くと、なんとこの男が後を付けて来たのではないか!彼がここで降りる予定では無いことを察し、「降りないで下さい」と言ったにも拘らず、強引に降りてしまったのだ。
 こうして、何も無い駅のホームに2人だけが取り残されてしまったのである。もう最悪の状況だ。万事休す…。

 私はそんな五月蠅い彼に構うことなく
撮影の準備を始めたが、どうにもシツコク絡んで来る。正直、本当に参った。ここの撮影時間はおよそ15分、その後、隣の“一勝地駅”へ
 3kmの道のりを歩いて行くつもりで、先のスケジュールもギッシリと詰まっていた。そんな男を相手にしている暇なんて全く無い!私の心は次第に怒りが湧き立ってきた。そんな
 彼に対して無愛想に無視し続けていると、彼は突然、「何だよー こんな所で降りちまったじゃねーか?」と、大声で私に向かって叫んだ。これを聞いた私はとうとう“噴火”した。
 「そんなのオレの知ったことか!てめえが勝手に降りたんだろうがぁ〜!あぁっー!?」と、彼の倍近い大声を張り上げ、柄の悪いヤンキー風に威嚇したのだった。すると彼は突
 然黙り込み、ボソッと何か言って足早に立ち去った。こうして私の行く予定と反対方向の渡駅方面へと歩いて行った。日ごろ、様々な秘境駅では“犬”に良く吠えられるが、人間
 に絡まれたのは初めての事だ。こうして駅の撮影を進めていると、怒りも忘れて行った。撮影を済ませ、球磨川の流れを見ながら隣の一勝地駅まで歩く道のりの間に、先ほどの
 事件などタダの笑いの種に過ぎないように感じ
て来た。だが、こうした事件は2度と御免だが、長く旅をしていると、こうしたリスクも考えておく必要があるかも知れない。