2001/11/30 作成
武田尾駅
福知山線 “武田尾駅” 周囲は山深く、ホームの半分がトンネルの中にある不思議な駅だった
駅周囲に人家はないが、徒歩で5分ほどの渓谷沿いにひっそりと温泉がある 駅はトンネルに挟まれた狭い空間に存在している
トンネル内には待合室があるが、何だか薄暗くて居心地が悪い 複線電化された過密ダイヤ路線を、201系の通勤電車が行き交っている
訪問日記 2001年11月15日 訪問
この“武田尾駅”は、大阪方面から山陰方面へと向かうメインルートの福知山線にある。起点の尼崎駅からこの駅を通り、途中の篠山口駅までは
複線電化されていて電車の本数は多い。車両も、快速は221系近郊型、各駅停車は201系通勤型電車が使用され、大阪近郊のベッドタウンを控え
ているため日々多くの乗客が流動している。こんな状況からは想像し難いが、ここは他の駅と明らかに様子が異なる。駅は両側をトンネルに挟まれ
た渓谷にあり、橋上に造られたホームは長さが足りず、半分くらいはトンネルの中である。かなり変わった構造をしていて、当然このような場所にあ
るため、街が形成されるはずもなく、特急や快速電車は通過してしまう。それでも15分に1本はやって来る各駅停車のお陰で、駅へ到達することは
非常に容易い。
大阪という西日本を代表する大都会の駅を出た電車は、幾つかの駅をやり過ごしているうちに、歌劇で有名な宝塚へ着く。引き続き乗車していると
、しばらく続いていた住宅地が突然ぷっつりと切れ山の中へ。西宮名塩駅を過ぎて長いトンネルを抜けると、深い渓谷へと出て電車が停まった。
ここが“武田尾駅”だった。電車を降りると、いきなり広がる峡谷を目の当たりにして、思わず「やっほぉぉぉ〜っ」、とは決して叫ばないが、自然と背
伸びをしている自分がいた。先程まで鉄とコンクリートの人口物に囲まれていた身は、突然大自然の真っただ中へ放り出された状況に、体感的に
もかなり戸惑っているようだ。関西圏のこうした駅は、ここ以外にも山陰本線の保津峡駅、神戸電鉄の菊水山駅など、大都会から至近距離にある
ため、その気になれば気軽に自然体験が可能である。
周囲を探検しよう。ホームから薄暗い階段で降り、紅葉が色付き始めた渓谷沿いに歩みを進める。一般家庭とおぼしき人家は一切存在せず、数軒
ほどの温泉旅館が見えるだけ。ここを日常的に利用する者は非常に限られているようで、大半は休日のハイキング客か、“武田尾温泉”の宿泊客
ぐらいしか居ないのではないかと思われる。仮に私がこの近辺の住んでいて、大阪中心部の会社へ勤めていたとしたら、恐らく“仮病の連絡付き
現実逃避王”に輝いてしまうかも知れない(冗談)。のんびりとした時の流れの中で、駅は豊かな自然と温泉という甘い誘惑を撒き散らしながら、通
勤ラッシュに揉まれる人たちを今日も見送っている。