1999/10/16 作成

田本駅



絶壁の駅と呼ばれる飯田線の“田本駅”

      

絶壁にホームが張り付いている     ところで上にある岩は大丈夫なのか?    田本駅への歩道入り口  ここから10分ほど急坂を降りる

   訪問日記  1999年9月29日 訪問
  
  今回の“秘境駅訪問旅”は、本来であれば列車で訪れるべき所を、私のもう一つの趣味であるオフロードバイクでの林道ツーリングを兼ね、残暑厳しい秋の休日を利用して
 やってきた。ここは噂に聞いていたが、集落から駅まで暗く細い獣道のような歩道しかなく、高低差も200mもあるという。その地形たるや間違いなく崖地であろうと想像してい
 たが、実際に訪れてみて、想像をはるかに超えた険しい地形であることが判った。これはもう、崖の途中に無理やりホームを貼り付けたようなものであり、あり得ないほどスリ
 リングな駅であった。

 ここまでの道のりは、長野県南部の山中を縫うように走る県道をやっとの思いで泰阜村の中心となる“温田駅”へと到着した。ここも以前は有人駅であったが、約1年前に無人化
 されてしまい、何となく街全体が沈んでいる様に感じた。ガスと食料を補給し、来た道を2Km程引き返して“田本駅”への入り口を探した。しかし、駅への看板らしき物は一切無
 く、仕方が無いので栗拾いをしていたおばさんに駅までの道を聞いた。おばさん曰く、「あと少し行くと“奈川さん”って食堂があるから、そこから左に曲がって降りていく道があっ
 から」との事。そこで時間はどれくらいかかるか?との問いに更にオバチャンは「7〜8分っていうね」 …んん??? そして、こうも付け加えた。「私は行ったことが無いきに」あぁ〜、
 この駅は地元からも見捨てられているのかぁ〜 暫し呆然としてしまった。

 おばさんに礼をいって、教えられた通りに左方向へ延びる細い歩道へと入っていった。途中に栗が落ちているので土産にすることにして、のんびりと狭い歩道を降りて行く。やが
 て、深い林の中に突入して行き、まるでハイキングコースの様子を呈してきた。ハッキリいうと「獣道」とは大げさな表現で、歩道の中央部はアスファルトで舗装してあり、雨の日
 でも泥濘を防いでくれるようだ。確かに街灯の類は一切無いので、夜中はそれこそ恐ろしい体験が出来そうだ。10分程歩いたところで、“田本駅”がトンネル上のポータルから
 見えてきた。「うをおおぉ〜っ!確かに凄い場所だ!」噂に聞いた通りの凄まじい立地にある。ホーム上の待合室へ入るが、そこは雨宿り程度の簡素な造りで狭いものだった。
 
 こうして、お菓子を食べたりコーヒーを沸かしたりして暫しノンビリとくつろぐ。時折、正面の天竜川に魚が跳ねるのか「バシャッ!」と音がする。う〜ん なんて長閑なんだ。幸せな
 時間はやがてトンネル入り口付近の線路上に落ちていたある物体を目にした時から壮絶な一時へと変貌した! あ゛〜っ 哀れ狸が、電車に轢かれて首と胴体が分離している
 ではないか。ううう…可哀相に(合掌)。しばらくすると、遠くから子供達の声が響いて来て、やがて中学生の10人位の集団が到来。落ち着きが一気に無くなり、電車の客ではない
 私はここに居る資格など無いので、そそくさと荷物をまとめて退散することにした。そして電車がやって来ると、中学生達はそれに吸い込まれて行った。発車するとほぼ同時に
 元のバイクを停めてある場所へ登坂を開始。暑いなか大汗を掻きながら、20分くらいかけて到着。ヘルメットを被りたくはなかったが仕方ない。それでもバイクを発進させるとやが
 て涼風で気持ち良くなってきた。