09/09/15 作成

日本最長鈍行 “2429D” 乗車記  Vol.2

  今回は日本一の長距離鈍行の旅というテーマで旅をすることになった。その距離は308.4kmと確かに長いが、山陽本線には下関〜岡山の
 384.7kmを走る“3362M”列車が上回る(但し、乗車時間は7時間1分で、2429Dの8時間1分より1時間短い)。しかし、これは徳山から列車
 番号が“5362M”へ変わり、しかも“快速・シティーライナー”になってしまうのだ。快速列車は乗車券以外、特別に料金が掛からないため、
 普通列車の一部と見なすのが一般的だ。しかし、私は冒頭から“長距離鈍行”という題目で取り組んでいる。その名が示すとおり、“快速”は
 “鈍行”ではない。これは2009年3月の改正から臨時列車化された“快速・ムーンライトながら”も同じことが言える。この列車は東京〜大垣の
 410.0kmを6時間45分で結び、表定速度も60.7km/hにもなる、いわば速達列車である。
 
 それでは、距離はともかく一番ノンビリとした鈍行はどの列車か?道中、時刻表を眺めて一つの結論に達した。それは只見線を走る“426D”
 列車だ。早朝5:32に小出を出て、終点の会津若松へ10:38に着くもので、135.2kmの距離に5時間6分もかかる。ここまで遅い理由は、急勾配
 の路線であること、列車交換のために途中の大白川で16分、会津川口で25分、会津宮下で16分も停車しているからだ。表定速度は26.5km/h
 と自転車並みである。機会があったら是非乗ってみたいものだ。 

   

  布部駅には倉本聰の筆による「北の国から ここに始まる」の碑がある。   いつの間にか空は晴れ渡った。   山部駅で釧路発滝川行きの、上り快速“狩勝”と列車交換。

 さて、北海道のほぼ中心に位置する富良野駅に停車すること19分。2両編成となった我が“2429D”は定刻11:06に発車した。札幌と道東を
 結ぶメインルートから外れて久しい根室本線を南下して行く。途中、山部駅で釧路から来た3430D列車と交換だ。相手の列車は、いま乗車
 している“2429D”と同区間を走る上り列車である。しかし、釧路を出るときには2522Dの普通列車だったが、途中の帯広からは3430Dへと
 変わり、同時に列車名も “快速・狩勝”となっている。そのため、全区間の所要時間は6時間55分で、この2429Dよりも1時間あまり短かい。
 こうして少しばかり足の速い同志と別れ、北海道有数の人造湖である“かなやま湖”を車窓に見る。中々の絶景だ。

 
  

  大自然に囲まれる雄大なかなやま湖。  東鹿越駅は周囲に人家の少ない秘境駅だ。古い木造駅舎も健在。  ホームの上に鎮座する岩は、石灰石を運び出していた名残り。

 石灰石を産出する鉱山のある東鹿越駅。かつては粉砕工場まで専用線があり、釧網本線の中斜里にある製糖工場まで、砂糖の製造過程で
 使用される石灰を運ぶ貨物列車が運行されていた。しかし、現在ではトラック輸送に切り替わってしまった。環境保全と地球温暖化防止のため
 にも、ぜひ復活して欲しいものだ。

   

  映画「鉄道員」の幌舞駅としてロケで使われた幾寅駅には観光客の姿も。  長閑な牧草地の風景に、睡魔と闘う私!   広い構内に狩勝峠へ挑む補機を擁していた落合駅。    

 我が2429D列車は、淡々と走る。先ほど表定速度が38.5km/hと紹介したが、それは停車時間を含めたもの。走っているときには80km/h程度の
 スピードを出している。そして、このキハ40という車両はその厳つい外見とは違ってソフトな乗り心地である。本線という強化された路盤の良さも
 あるが、本州で使われている同じ形式とは台車が異なり、何と空気バネ(エアサス)なのだ。エアコンこそ装備されていないが、この涼しい気候の
 なかではまったく必要ない。長い道中、乗り心地が悪ければ、かなり疲れるものだが、この列車は良い意味で裏切ってくれる。
 こうして、映画「鉄道員(ぽっぽや)」で高倉健さんが駅長を務めた幌舞駅(実際は幾寅駅)を見ながら、狩勝峠の入り口にあたる落合駅に着いた。
 
  
 

  落合駅の広い構内に往年の栄華を偲ぶ。   隣の新得駅までは28.1kmもある長丁場だ。   ようやく到着した新得駅で小腹が空いたが2分停車ではソバは諦めるしかない。

 落合では16分停車。帯広からの2432Dと列車交換。駅の周囲は幾ばくかの人家が見られるが、対向列車を含めて乗降はなかった。恐らく、
 狩勝峠に挑むため、ここに大勢いた鉄道関係者たちの集落だろうか。車両の性能向上、石勝線の開通によるメインルートの変遷…信越本線の
 横川駅と想いが重なる。そして長いトンネルを抜けた峠は無情にも酷い雨だった。時折過ぎ去る信号場にカメラを持つ手が反応するが、車内
 からの撮影はあまりにも酷い出来。新得への雄大な景色も、何が写っているのか不明な状態だった(悲)。そんな小さなフラストレーションを溜め
 ながら、新得駅へ到着。しかし停車時間はたったの2分。これでは名物の駅そばが食べられない。非常に残念である。

   
 

  林の中にある平野川信号場。  特急スーパーおおぞら8号と列車交換。振り子を効かせ、猛烈なスピードで駆け抜けて行く。  残念ながら秘境駅の“羽帯”は通過する。

 新得を出ると車窓には十勝平野が広がってくる。十勝清水〜羽帯にある平野川信号場で、札幌行き特急「スーパーおおぞら8号」と列車交換。
 鋭い警笛を鳴らし、振り子を効かせながら、猛烈なスピードで駆け抜けていった。そして、下り3本、上り5本しか停車しない秘境駅の“羽帯”を
 通過。ホームの上にある小さな待合室が震えている。ところで話は変わるが、この列車の乗車率は今までの全区間で概ね60%ほどだ。始発の
 滝川から乗っているのはグループを含めて10人ほど。恐らくモノ好きな旅人系であろう。その他は途中で乗降している一般的な利用者と思わ
 れる。その一般的な利用者の顔には皆、“帯広で降ります”と書いてあるように見えた。結果的に予想は当たったが、その理由は次回に申し上
 げよう。