2008/8/19 作成

ほうらい丘駅



ケーブルカーに珍しい中間駅である「ほうらい丘駅」は、ひっそりと林の中に佇んでいる。

        

大正末期に行われたケーブル軌道の敷設時に発掘された石仏を奉納するために霊窟の石仏(蓬莱丘地蔵尊)が作られた。

        

ケーブルカーの特性により、この駅の上方にあるもう一つの中間駅である「もたて山」に停車する時には、ここにも必ず停車する。


   訪問日記  2008年5月23日 訪問
 
  ここは比叡山の坂本ケーブルにある中間駅である。ケーブルカーとは一本のケーブルが釣瓶(つるべ)のように、お互いの先端に車両が繋がれていて、
 路線のちょうど真ん中にある交換設備で上下列車の行き違いを行っている。この坂本ケーブルの特異な点は、その交換設備を挟んだ上下に中間駅が
 存在していることだ。上方には「もたて山駅」、そして下方にはこの「ほうらい駅」が設置されており、このような形態は全国的にも非常に珍しい。
 このケーブル路線は、平安時代初期の僧侶、最澄(767〜822年)により開かれた、日本天台宗の本山寺院である滋賀県の比叡山延暦寺に参拝する
 乗客の便宜を図るため、比叡山鉄道により昭和2年に開業した、日本最長(2025m)のケーブルカーなのである。

 これらの中間駅は開業当時こそ存在していなかったが、先の昭和24年に開業した上方にある「もたて山駅」へ車両が停車した際、ケーブルカーの特性に
 より、この場所に意味もなく停車していた。その後、駅の周囲に散在していた石仏群を奉納するため、霊窟(蓬莱丘地蔵尊)が造られたが、その供養に
 訪れる人々の利便性を図るため、昭和59年に設置されたのである
。その石仏とは、元亀2年(1571)織田信長の比叡山焼き討ちの際、犠牲になった多くの
 人々の霊を慰めるため、土地の人々が石仏を刻み、死者の冥福を祈ったものと伝えらている。また、霊屈から下方の斜面にも多くの石仏が残され、辺り
 一帯は異様な空気に包まれているのであった。

 そして、この駅で降車するには、事前に山麓のケーブル坂本駅か、山上のケーブル延暦寺駅で駅員に予め申告しておく必要がある。またこの無人の駅には
 専用電話が設置されており、停車を依頼する連絡があった時だけ停車し、通常は通過してしまうのだ。
 列車そのものは30分おきに運行されるため、ここに到達することは難しくは無いのだが、駅に続く車道は一切無く、山上の延暦寺へ続くハイキングコースを
 使えば何とか辿り付く事ができるレベルに過ぎない。しかし、そのハイキングコースに続く山道は、現在治水工事や伐採により途絶えたような状態になって
 いるため、ここは順当にケーブルカーで訪問するのが現実的な手段であろう。
 駅には鬱蒼とした山林の中に160パーミルに及ぶ急勾配を駆け上がるかのような傾斜したホームがあるだけで、先に理由を述べたとおり、周囲に人家は
 一軒も存在しない。それどころか、ここを訪れて一夜を明かす駅寝行為など、それこそ“何か”を背負って帰ることになるのは想像に難しくない。
 何かに取り憑かれて奇怪な幻想を抱き、その結果、猟奇な事件を起こされては被害者に多大な迷惑が掛かるため、世の平和のためにも、くれぐれも実行
 しないよう切に願いたい(笑)。

 さて、この駅へは富山県の黒部峡谷鉄道の秘境駅を訪問した帰り道に寄ることになった。前夜は適当な宿が見つからなかったため、仕方なく?高山本線の
 「杉原駅」で駅寝を敢行した。その翌朝、秘境駅調査のために「渚駅」に降りたが、残念ながらランクインするレベルでは無かった。その後、「上呂駅」の古い
 木造駅舎などを見るため、点々と途中下車しながら、その歩みを遅々と進めた。高山本線は山間を縫うように走ってはいるが、残念ながら秘境駅と思われ
 るところを発掘出来なかったのは残念であった。
 そして、あっさりと飛騨金山から特急「ワイドビューひだ4号」で岐阜、更に特急「しらさぎ5号」で米原と贅沢な在来線の特急移動を進め、更に新快速を山科で
 湖西線に乗り換え、「比叡山坂本駅」に降り立った。
 天気は雲ひとつ無い快晴。初夏の陽気に額の汗が滲む。こうして江若交通のバスに乗車し、麓のケーブル坂本駅に辿り着いた。切符売り場の中年の叔母
 さんに、「ほうらい丘」とその先の「もたて山」で下車する旨を伝え、乗車券を購入するが、この切符は途中下車が出来るとのことで、区間ごとに割高な運賃を
 支払わなくて済んだことは嬉しい誤算であった。こうして冷えたペットボトルのお茶をお供に、ケーブルカーに乗車したが、僅か300m、時間にしておよそ2分間
 であろうか?あっという間にこの「ほうらい丘」に到着したのであった。

 滞在時間は30分間だけ。早ばやと駅関係の撮影を終え、例の霊屈?へ入って石仏を参拝。薄暗い洞内は蝋燭が灯り、得も知れない迫力に満ちている。
 貧乏性のため、神社仏閣などの賽銭箱には1〜10円玉しか入れたことが無かった(爆)が、思わず100円を入れてしまった。〜というか、入れさせて頂き
 ました(笑)。半端なことをしても気持ちが治まらないと思ったからだが、嫌なら最初から入れなければ良いし、道中の安全を願うためには止む終えまい。
 こうして次に訪問する「もたて山」へ向かう列車に乗車しながら、霊気溢れる山中の駅を後にするのであった。

     
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