2012/10/24 作成
最北の秘境駅をめぐる旅 Vol.1
広大な北海道の風景に佇む板張りホーム。厳しい自然のなか、小さくも健気に立っている姿が脳裏から離れなかった。時を同じく、“旅と鉄道 11月号”で
秘境駅特集が組まれ、執筆依頼を受けた私は、真っ先に想いを綴った。以下、―国鉄時代の“仮乗降場”が、今も板張りホームのまま、原野のなかにポツン
と佇んでいる。その長さは、たった1両の列車さえも、受け止めることが出来ない。まるで小学校の校長先生が、お話をするために立つ“朝礼台”のような風情
は、何とも愛おしいのである―。 あぁ宗谷本線…。以前書いた“冬眠明けの(臨)田子倉駅 初乗車の旅”の冒頭と同じく、またしても同じシチュエーションを
作ってしまった。書いている本人が旅立ちたくても旅立てないフラストレーション。こうした諸問題を解消するには実際に行くしかない。さらに性質が悪いのは、
遠ければ遠いほど燃え上がること。以前、担当編集者にいわしめた決定的なひと言を思い出した。“移動フェチ”。“流浪の旅人”、“彷徨える探訪者”など、決
して格好の良いものではなく、いささか気持ちの悪い響きだが、当たらずとも遠からず。いや、そのものか。
旅立ちにあたって目的地を道北エリアに絞り、ひと月前からプラン作成を吟味した。当初、“3連休おでかけパス(普通列車用)”と“鉄道の日記念きっぷ”の連
続使用を考えていた。しかし、前者は購入翌日からの使用であり、後者は3日間の連続使用という制度に改悪され、さらに双方とも普通列車しか利用できない
などの制約から、「札幌・道北ゾーン周遊きっぷ」を使うことにした。今回は過去の失敗(ゾーン内での発券不可)を教訓に、野田生〜南千歳の往復券とともに
地元・三次駅で事前に入手。北海道とのアクセスには、広島空港と新千歳空港の往復に航空機を利用。もちろんJALのマイレージ利用なので直接の支払は、
広島空港近くの駐車場代のみ。私の好きな言葉「旅は生活の一部」を信条に徹底してコスパを追求する。次の旅(生活)もあるから贅沢は敵なのだ。これでも
時勢もあり、駅寝をしなくなったが、駅近の格安宿は欠かせない。自身の疲れを癒やすとともに、携行機器の充電も出来るし、近年になってネット環境も普及
してきている。さらに同じホテルでも和室はお得な例が多いので、“じゃらん”と“楽天トラベル”などのポイントを使い分けながら、なるべく財布から旅立たせる
事のないよう気を使っている。
1日目(2012年10月5日)
当日の朝、クルマで自宅を出発し、広島空港の近くにある「正広パーキング」に預ける。ここは、1日あたり500円で空港へのバス送迎付き。ちなみに空港前
の県営Pは800円/日で、遠い場所だと延々と荷物を運ぶ羽目に遭う。余計なことだが、空港が相当不便な場所にあるんだから、岡山空港の駐車場(一部)
のように無料で良いのでは?と思う。仮に実現すると新幹線利用者との競争関係に変化が?正広Pの運命は?。関係者ではないので割愛するが、優雅に
カフェでモーニングを食べ、手荷物を預けていよいよ搭乗。実は、こう見えて飛行機はあまり好きではない。離着陸は未だに心拍数が上昇するのが判るほど
。それでも、広島から北海道までは2時間弱。列車で往復すると今回の日程では半分を消化してしまうし、費用ともなれば食費を含めて往復で10万円近い
出費になるため、現実的には致し方あるまい。
機内で小一時間ほど睡眠を取って、新千歳空港に着陸。快速「エアポート133号」で札幌、特急「スーパーカムイ23号」で深川へと進む。まず、準備運動よろ
しく同ゾーン内の留萌本線に乗り、わずか1駅目の“北一已駅”で下車。“きたいちゃん”から“きたいちやん”に変わったのは1997(平成9)年のこと。「已」の
字も、干支の「巳」や、おのれの「己」ではないという少々ややこしい駅だ。路線は留萌まで明治43年に開通しているが、ここは1955(昭和30)年に開業して
おり比較的新しい。それでもこの木造駅舎は、心底を打つほど素晴らしいものだ。駅舎にロープを張って黄色いハンカチを掛けたら、まさに某有名映画のラ
ストシーンであろう。だが、待合室内にあるシュールな鏡は、自身の内面が映し出されそうで、ある意味恐怖感さえ覚えるものであった。
およそ1時間の滞在のあと、再び深川に戻り、特急「スーパーカムイ29号」で新駅舎が落成したばかりの旭川へ。夕食の弁当(not駅弁)とともに食料調達。
明日は幌延まで店舗とは無縁の世界に突入するうえ、さらに今夜の宿泊地の名寄はコンビニが遠く、しかも宿と反対方向であるため事前に済ませておく。
しかし、予定の特急「スーパー宗谷」は、千歳線で公衆立ち入りの影響で、乗り継ぎ列車の待合が生じて30分以上も遅れた。これ以上乗り継ぎがないため
後のプランに影響しないが、ハタ迷惑なことである。暇つぶしに、特急「オホーツク」、石北本線のキハ40形、駅なかのオブジェなんかを撮影する。やってき
た列車は混雑していたが、運良く車端の席にありついた。とかく荷物が大きいと有難い席だ。真っ暗になった塩狩峠を越えて名寄駅へ到着。今夜の宿は、
5分ほど歩いた所の「ビジネスホテル・サンフラワー」。ここは、今回で2回目だが、残念ながら大風呂が故障していて、本来女性用の小風呂を締め切り扱い
で使うことに。廊下に幾人かいて、1時間半後に何とか入浴を果たした。部屋はこじんまりした和室で、むしろゆっくり出来たのは幸いであった。